【はたらく現場のリアル】ちょっと気になるあの職場②ブドウづくりから販売まで~十勝ワインを支える職場の魅力【HP版】

掲載日:2026.06.08

はたらく現場のリアル「ちょっと気になるあの職場」第2弾

2026年から機関紙自治労北海道でスタートした連載企画「はたらく現場のリアル」。
自治体職場の中には、住民サービスを支える仕事だけでなく、地域の特色を生かしたさまざまな仕事があります。
今回は「ちょっと気になるあの職場」第2弾として、池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(十勝ワイン)を取材しました。


ワイン城の地下熟成室で、ワインづくりについて語る一戸竜也さん

「池田町に住んでいる方が、“うちの町の特産品”と自然に誇れる存在になっているのは町営だからこそ」
池田町ブドウ・ブドウ酒研究所営業課の一戸竜也さんはそう語った。
特別なことというよりも、当たり前の風景のように語られるその言葉には、ワインが単なる“商品”ではなく、町の営みそのものとして根づいている感覚がにじんでいた。

【自治労新聞第2421号26年6月11日付はこちら】
本記事は自治労北海道本部機関紙で連載している「はたらく現場のリアル ちょっと気になるあの職場」の掲載内容をもとに、インタビュー全文を加えて再構成したものです。


・自然災害から始まったワインづくり


ワイン城から展望できる池田町の街並み

十勝ワインの原点は、決して華やかなものではない。
1952年の第1次十勝沖地震やその翌年から2年続いた冷害などが重なり、池田町の産業の主力だった農業が大きな打撃を受けた。
地域の産業構造そのものが揺らぎ、大きな財政的困難に直面したとされる。
そのなかで注目されたのが「山ぶどう」だった。

「寒さに強くて、野山で自然に育つ山ブドウをヒントに、ブドウ作りを行うことで、農家の収入源になるんじゃないかと」

1960年代前半、町はワインづくりに関する試験的な取り組みを開始し、そこから本格的な産業化へとつながっていく。
やがて山ぶどうを活用したワインは、国際的なワインコンクールで評価を受けるなど、外部からも注目される存在になっていった。
こうして“町が関わるワインづくり”は、少しずつ形を持ち、地域の農業振興事業としてのあゆみをはじめた。


・35
ヘクタールの畑と挑戦


広大な圃場とブドウ栽培のようす

現在、十勝ワインでは約35ヘクタールの自社圃場と契約農家の畑、さらに余市・仁木など複数の地域でブドウ栽培を行っている。

「広い畑を、職員と会計年度任用職員で管理しています」

ブドウ栽培は単なる農作業ではない。剪定や収穫に加え、品種改良や交配研究も含まれ、その積み重ねはこれまでに2万回を超えるとも言われる。長い時間をかけて、池田町の気候に適したブドウが生み出されてきた。
その代表格が「清舞」「山幸」といった品種であり、現在も新たな品種の育成が続いている。近年では池田町出身のDREAMS COME TRUE・吉田美和さんが命名した「銀河」「未来」も農林水産省に登録された。

「時間をかけて、池田町の気候に合うブドウをつくり続けているんです」

その言葉の背景には、この土地ならではの厳しい自然環境がある。

・池田町の厳しい寒さと栽培方法


厳しい寒さと感想からブドウを守るために培土した土を取り除く作業のようす

十勝ワインのフラッグシップともいえる品種「清見」は、もともとフランス由来の耐寒性品種「セイベル」を基に導入されたブドウだ。
しかし池田町の冬は、時にマイナス30度にも達する。

「山ぶどうは放っておいても越冬できるんですが、清見はそうはいかないんです」

清見の耐寒性はマイナス22〜23度程度。池田町の厳冬期には、そのままでは到底越冬できない。
一方で、同じ北海道でも余市や仁木のように雪が多い地域では事情が異なる。雪が“断熱材”のような役割を果たし、ブドウを守ってくれるからだ。

しかし池田町では、根雪は20〜30センチ程度。
ブドウの実がなる位置は地上70〜80センチほどあり、雪だけでは守りきれない。
そのため導入されたのが、“土をかぶせて越冬させる(培土)”という方法だった。

冬の前に枝を地面に伏せ、土をかけて覆い、寒さから守る。
こうすることでようやく、翌年の秋に実をつけることができる。

・手間の積み重ねでつくられたワイン

この栽培方法は、非常に手間がかかる。

「最初の年は全部ダメになったんです。そこから、どうやったら越冬できるかを試行錯誤してきました」

土をかける作業、冬前の準備、春の掘り起こし。
気候と向き合いながら、毎年同じ作業を繰り返す必要がある。

それでも続けてきたのは、この土地でしかできないワインをつくるためだ。
清見はやがて池田町を代表する品種となり、清舞や山幸へとつながっていった。

「手間はかかるんですけど、それでも続ける価値がある品種なんです」

・気候とともに変わる仕事

収穫作業のようす

この土地のワインづくりは、常に気候とともにある。
冬はマイナス30度に達する厳しい寒さ。
一方で近年は温暖化の影響も指摘されている。

「収穫時期が昔より早くなっていて、少しずつ前倒しになっている印象です」

かつては9月中旬以降だった収穫が、現在ではそれより早くなっているという。
また、鳥害など自然環境による影響も無視できない。
カラスによる被害が大きくなる年もあり、収穫量に影響が出ることもある。

「ロケット花火を使っても慣れてしまう。カラスは本当に賢いですね」

自然との向き合いは、今も続いている。

・「町営だからできる」長い研究

民間ワイナリーとの違いについて、一戸さんはこう話す。

「すぐ利益にならないことに時間をかけられるところです」

山ぶどうをベースにした交配研究、寒冷地対応の品種開発、さらには海外派遣による技術導入。
かつては職員がフランスのコニャックやシャンパーニュに派遣され、技術を学んだ。

「機械ごと持ち帰ってきたような時代もあったと聞いています」

その結果、単なるワインではなく「地域の気候に適応したワイン」が生まれてきた。

・自治体がつくるワイン、その横のつながり

北海道で自治体が直営ワイナリーとしてワインづくりを行っているのは、池田町と富良野市の二つだけだ。
両者は競争関係というよりも、展示会や意見交換などを通じて、互いに高め合う関係として続いてきた。

「ワインって今、なかなか簡単に売れる市場じゃなくなってきているので。どういう作り方をしていくかとか、今後どうしていくか、そういう話はしています」

かつてに比べてワイナリー数は増え、業界全体の環境も大きく変化している。
その中で自治体のワイナリーは、単独で完結するのではなく、地域全体の流れの中で役割を持ちながら歩みを続けている。

・町とともにある販売と文化


池田町秋のワイン祭りのようす

十勝ワインは“つくるだけ”では終わらない。
営業ではスーパー・量販店やイベントなどでの道内販売に加え、東京事務所を中心に物産展や催事も展開している。

一方で、地域に根ざした取り組みもある。
町民限定ワインの販売、還元トカップなどの施策を通じて、「町民が町のワインを飲む文化」をつくってきた。

「やっぱり“これがうちのワインだ”って自然に言える状態が理想ですね」

・日常に染み込む仕事

日常の中にまで入り込んでくるワインへの思い。
スーパーに並ぶワインの棚、ラベルの向き—— 気づけば自然と視線がそこに向かってしまう。

「あ、ワイン?みたいな感じで言われることもあるんですけど」

 一戸さんは少し笑いながらそう振り返る。

「でも一回携わると、離れられないというか……。買い物に行っても、ついワインコーナー見ちゃうんですよね。手前の自社商品がなくなっていて、奥にあったら前に出したくなるし、向きが曲がってたら直したくなる。ひどいときは、ほこりかぶってるなと思ってハンカチで拭いたりもしてました」

それは“仕事中”ではない。けれど、生活の中に、役割がにじみ続けている感覚だった。

「棚の広さとか、ワインにどれくらいスペースを割いてもらってるかとか、そういうのも気になってしまって。勝手に責任感じちゃうんですよね」

・変化のなかで変わらないもの


ワイン城の地下2階にある地下熟成室。ワインが静かに眠っています。

販売数量は年間約469㎘。
長い歴史の中で大きく崩れることはないが、その内側では確実に変化が起きている。
生産当初からの長いファン層の減少、若年層のアルコール離れ。ワイナリーの増加による競争の激化。

それでも現場の動きは止まらない。

変化の波の中にあっても、町の特産品としてのワインをどう届けていくのか、その問いに向き合いながら、日々の仕事は積み重ねられている。
条件は決して楽ではない。それでも一戸さんたちは、売り方を工夫し、見せ方を考え、現場での気づきを次へとつなぎながら、新しい道を模索し続けている。
日常の中に染み込んだ視点をそのままに、町のワインをどう未来へ届けていくか。
その試行錯誤は、今も続いている。

・“一本のワインが売れる”という実感

「自分が関わったワインが売れて、“美味しかった”って言われるとやっぱり嬉しいですね」

その瞬間だけは、数字や制度とは別の手触りがある。
時には厳しい評価もある。
だがそれも含めて、現場のリアルだ。

「役場の仕事の中では、ちょっと特殊かもしれませんね。ここは」

・変化の中で問われる力


ワイン工場のようす

今後の課題は明確だ。
気候変動への対応、新たな顧客層の開拓、そして市場競争の激化。ワイン事業そのものが長期的な視点を前提とする中で、いま改めて「次の主力」をどう生み出すかが問われている。

一戸さんはその中で、こう語る。

「山幸に代わるような主力品種を、40年先を見てつくっていく必要があると思っています」

十勝ワインは、100年構想のもとで始まり、現在はその約60年目にあたる。
これまでにも「清見」から「山幸」へと、時代ごとの主力品種を育てながら歩んできた歴史がある。

だからこそ、いま求められているのは単なる現状維持ではない。

・40年先を見据えた挑戦と模索


ワイン城1階のブランデー蒸留室

この先40年を見据え、気候変動や栽培環境の変化にも対応しながら、新たな品種や商品を育てていくことが求められている。
その実現に向けては、研究所全体での試行錯誤が続いている。これまで十分に商品化されてこなかった品種の可能性を探り、ワインの幅そのものを広げていく挑戦でもある。

また、情報発信の面でも新たな工夫が求められている。
若手職員の発信力や外部のインフルエンサーとの連携など、これまでとは異なる広がり方にも可能性を見いだしながら、「どう届けるか」も含めた模索が始まっている。

「今やっていることをただ続けているだけでは、どこかで事業は先細りしてしまう。だからこそ、山幸に続く新しい主力をどうつくるか。そこを見据えて、研究所一丸で取り組んでいかないといけないと思っています」

短期的な成果ではなく、世代をまたぐ時間軸。
その前提の上で、次の一歩が静かに積み重ねられている。

・町の仕事で終わらない仕事

最後に、一戸さんはこう語る。

「ここでの仕事って、一般的な役場・行政の業務じゃないんですよね」

ブドウを育てる人、ワインをつくる人、売る人、地元のワインを誇りに思い楽しむ人。
そのすべてが、町の風景とつながっている。

「自分がやったことが、そのまま商品になって、誰かの手に届く。その実感はやっぱり特別です」

・あとがき

池田町のワインは、単なる地域産品ではない。
気候、歴史、そして人の手が重なってできている“時間の結晶”だ。

その現場の中心には、大切にブドウを見つめる人たちがいる。

そして今日もまた、一本のワインがどこかへ旅立っていく。

・PR:町とともに味わう、十勝ワイン

ワイン城限定商品と営業課の遠藤翔吾さん。ぜひお越しください!

十勝ワインは、池田町の自然や歴史、人の営みから生まれた地域ブランドのひとつです。

そしてその一本一本は、池田町職労の組合員のみなさんや関係者が、日々の仕事の中で丹精込めて育て、つくり上げてきたものでもあります。

冷涼な気候と厳しい冬の中での栽培、長年にわたる品種開発、そして現場の積み重ね。
そうした要素が一本のワインの背景にあります。

池田町にはワインの製造現場である「ワイン城」があり、見学や試飲を通じて、その成り立ちや背景に触れることができます。
ここでしか手に入らない商品や、季節ごとに異なる味わいのワインもあり、訪れるたびに新しい発見があります。

町の風景とともに育ってきたワインを、ぜひ池田町で味わってみてください。
その背景を知ることで、一杯の見え方が少し変わるはずです。


ワイン城の外観。正式名は「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」。ショッピングエリアやレストランもあり、楽しさいっぱいのワイン城です。

 

\抽選で池田町『梅酒ブランデー仕込み 』プレゼント/
 情 報 発 信 に 関 す る ア ン ケ ー ト


ご提供いただいた「梅酒ブランデー仕込み」と一戸さん

今回の取材にあたり、池田町ブドウ・ブドウ酒研究所様のご厚意により「梅酒ブランデー仕込み」3本のご提供をいただきました。

自治労北海道本部では、今後の情報発信の参考とするため、アンケートを実施しています。

アンケートにご回答いただいた方の中から抽選で「梅酒ブランデー仕込み」をプレゼントします。

【申込方法】

下記の専用の応募フォームより、アンケートにご回答のうえご応募ください。
※当選者は2026年8月に発行する「機関紙自治労北海道」に掲載予定

【応募期間】

2026年6月11日(木)~7月31日(金)

【アンケート・応募フォームはこちら】