酪農経営者に公的支援が必要=連合北海道「一次産業(酪農業)を支える若者雇用応援シンポジウム」

掲載日:2013.11.01

連合北海道は10月31日、札幌市・センチュリーロイヤルホテルで「一次産業(酪農業)を支える若者雇用応援シンポジウム」を開き、約100人が参加した。

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北海道は農林水産業が基幹産業であり、「食と農」を中心とした地域振興と雇用の創出が課題。そのためにも地域の農林水産業が若者雇用における魅力的で継続的に就労できる産業となるよう、まず第一歩として現状を知っていただくことが重要と考え、酪農業に携わる労働者にスポットをあてたシンポジウムを開いた。

はじめに、連合北海道・工藤会長が「本日は、高校生、大学生、行政関係者、酪農関係者などさまざまな立場の方が出席している。連合では『何でも相談ダイアル』で酪農ヘルパーに係る『年収が低い、将来不安』といった相談があり、問題点を考えていくため、本シンポジウムを開いた。食と農で地域の雇用をいかに継続していくかという視点もある」とあいさつした。

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 その後、基調講演「酪農ヘルパーの現状と将来展望」と題して、酪農学園大学農食環境学群・荒木和秋学群長が講演した。

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荒木学群長は「TPP関係国の中で日本は酪農業が最も脆弱。ニュージーランドの4倍の価格差。最近の円安の影響を受け、輸入穀物飼料が高騰し、酪農経営は大規模酪農家ほど厳しい状況にある。国際化にむけ対抗力をつけるには、国民の支持を得る必要がある。そのためには、国産乳の高品質・低価格化が必要だ」と述べた。

また、北海道の現状について「農家は少子高齢化・過疎化で減少している。酪農は大規模農家ほど輸入飼料価格の影響を受けやすい。多頭飼育は、乳牛の病気感染の確率を高め、酪農家の過重労働を促進する(普通の勤労者の2倍の勤労時間)。女性が離婚したくなるほどの生活環境になっている(休日がほとんど無くなる)。規模を拡大しても、少子化で家族労働は減少。機械化、支援組織(搾乳、草刈、糞尿処理など作業細分化)が進んでいる」と述べた。

さらに、ニュージーランドの現状について、「女性の休日は年間2週間~20日間取得可能。生活にゆとりがある。日本の2倍の乳量出荷、低価格。集約放牧で牛舎はない(牛が何でも自主的にやる仕組みにしている)。農地が集団化している(日本は少農地)。」と述べたうえで、「北海道の酪農ヘルパーは30代中心。経験は5~10年未満が多い。元会社員・学生・酪農経験者など。賃金水準が低い。月の休み(道東:週1日・平均3~4日)。仲間との連携は2割が取れていない。30%強の人が意見を言えない環境にあると回答している。人員体制の不足を感じている。不満(給料安い。休み取れない。将来に希望展望を持てない)。『3年以内に辞めたい』が大半の現状だ」と強調した。

今後の対策として、「酪農ヘルパーの増員、ヘルパーの経営参加、地域の担い手として公務員採用、ステイクホルダー調整者の役割付与、新規就農者として位置付け就農支援資金活用など。処遇改善(賃金)による地位向上。熊本県ではグループ制を導入してうまくいった。人間関係の調整を中心に、お互いにわかち合うことが大切だ」と述べた。

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その後行われた、トークセッションは「酪農業(一次産業)を支える若者雇用をどう考える」をテーマに、農水省生産局畜産部畜産企画課畜産環境・経営安定対策室環境企画班・和田剛課長補佐、道東酪農ヘルパーネットワークサービス有限責任事業組合十勝支部・松多 崇支部長、酪農学園大学農食環境学群・荒木 和秋郡学長が討論した。

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和田さんは、「全国の乳生産量は若干減少傾向を示している。生産量の半分は北海道。しかし、本州は飲用が大半だが北海道は加工原料乳生産が多く、飲用よりも単価が低迷しているので、大規模経営だが、本州より経営が厳しい。酪農ヘルパーの総数は2,200人。うち北海道は964人。増加傾向ではある(離職も多いが)。利用者も増加傾向(年間約20日間利用が平均)。農水省としては酪農ヘルパーを酪農政策の重要な位置付けとしている。2014年度にむけて、利用者とヘルパーへの支援をメニュー化を検討している」と述べた。

松多さんは、「酪農ヘルパーの仕事は、搾乳と牛の世話。簡単に見えるが、各農家の個性、各乳牛の個性を把握しないと難しい仕事。『給料安い。休みが取れない』とすぐ辞める人は多い。初任給16万、ボーナス4カ月(年収200~400万)、休暇6~8日、有休10日。自分としてはそんなに悪い条件とは思っていない。すぐ辞める人が多いと酪農ヘルパーの(職人になりきれない)質の低下懸念がある。長期にやっている人の支援も必要。お金で対応が一番だろうが、酪農家の経営も厳しい。利用料金を上げるわけにもいかない。公的支援が必要。社会を維持する経費としては安い」と述べた。

酪農ヘルパーの質の向上をするためにはどうしたらいいかという質問に対して、和田さんは「一般の人が酪農を知ること。ヘルパーの能力向上として、研修制度への公的支援を検討している。ヘルパー数の確保については、雇用環境の充実をすれば結果的に質の向上につながるだろう。支援策に公的補助を検討していきたい。また、研修に行きやすい職場環境の構築も必要だろう」と述べた。

※今回のシンポジウムが好評だったため、今後、連続講座に引き上げ第2回、第3回と開催する予定。